クレプトマニアとは
クレプトマニアは「窃盗症」や「病的窃盗」とも呼ばれる精神疾患のひとつです。通常の窃盗行為は「○○が欲しいけどお金がないから盗んで手に入れよう」というように、行為者が利益獲得を目的として盗みを行うものです。
これに対して、クレプトマニアは、十分な資産を有しているのに数百円の物の窃盗を繰り返したり、窃盗する物自体には大して関心を持たないことも多くあります。
窃盗後は、盗んだ物を放置したり、一度も使わずに捨ててしまうこともしばしばあります。
窃盗症(クレプトマニア)の
診断基準
世界的に、そして日本でも標準的に使用されている、アメリカ精神医学会による「精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM)」の最新版である第5版(以下DSM-5)においては、「窃盗症」として以下の診断基準が挙げられています。
精神障害の診断と統計の手引き
(DSM-5)による診断基準
窃盗症
- 個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗ろうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
- 窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり
- 窃盗に及ぶときの快感、満足、または解放感
- その盗みは、怒りまたは報復を表現するためのものではなく、妄想または幻覚への反応でもない。
- その盗みは、素行症、躁病エピソード、または反社会性パーソナリティ障害ではうまく説明されない。
診断基準Aは、自分の欲しいものだけ盗むことが常習化している人や、お金がないので盗む人などを区別するためのものです。ただし、クレプトマニアであっても、まったく必要のないものだけを盗むという人はほとんどいません。欲しいと思ったものも盗みつつも、必要以上の量を盗み、結局全部は使用しなかったり、必要のないものまで盗んで、自分でもあとから「何でこんなものも盗んだんだろう」と思うことがほとんどです。
また、診断基準を見てもわかる通り、窃盗直前のスリルや緊張感、窃盗後の達成感や解放感等が特徴的で、盗むこと自体が目的にもなっており、窃盗を他者から咎められたり、逮捕されることがあっても窃盗行為を繰り返してしまいます。
自分自身でも窃盗行為を止めることが困難なため、窃盗行為の後で強い罪悪感や後悔を経験することも少なくありません。
「自分で何とかしないといけない」と思うことで、社会的に孤立し、適切なサポートに繋がらず、結果として重症化してしまうことも多く見られます。
クレプトマニアと間違われやすい・
合併しやすいその他の精神疾患
※正式な診断には緻密な問診・診察が必要です。
※これらの精神疾患があると窃盗をしやすいというものではありません。
若年性の認知症の一種で、40〜50代に発症することも多く、早ければ30代頃から徐々にその症状が見られることもあります。認知症というと、主に記憶が障害されるアルツハイマー型認知症がイメージされやすいかもしれません。
しかし、前頭側頭型認知症は、初期には記憶の問題はほとんど見られず、性格の変化や社会的な行動から変化が現れることがほとんどです。そのため、認知症とは気づかれにくく、その他の精神疾患と間違われたり、時には単なる更年期障害や加齢による変化として長期間見逃され続けることも珍しくはありません。
主な症状としては、怒りっぽくなったり衝動的な行動が多くなる、無気力になり今まで取り組んでいた家事や趣味への意欲が低下する、共感性や思いやりが低下し自己中心的な言動が増える、同じような行動を繰り返すようになる、味覚や食べる量などに変化が現れる、などがあります。DSM-5においては、以下の診断基準が挙げられています。
精神障害の診断と統計の手引き
(DSM-5)による診断基準
前頭側頭型認知症/前頭側頭型軽度認知障害
- 認知症または軽度認知障害の基準を満たす。
- その障害は潜行性に発症し緩徐に進行する。
- (1)または(2):
(1)行動障害型:
- 以下の行動症状のうち3つ、またはそれ以上:
- 行動の脱抑制
- アパシーまたは無気力
- 思いやりの欠如または共感の欠如
- 保続的、常同的または強迫的/儀式的行動
- 口唇傾向および食行動の変化
- 社会的認知および/または実行能力の顕著な低下
- 発語量、喚語、呼称、文法、または語理解の形における、言語能力の顕著な低下
- 学習および記憶および知覚運動機能が比較的保たれている。
- その障害は脳血管疾患、他の神経変性疾患、物質の影響、その他の精神疾患、神経疾患、または全身性疾患ではうまく説明されない。
診断基準Aに「認知症または軽度認知障害の基準を満たす」とありますが、初期の段階では認知機能に大きな障害は見られず、知能検査を行っても数値の低下は認められないことが多くあります。ただし、前頭葉や側頭葉の萎縮により判断力が低下するため、犯罪行為が現れることもあります。
内容としては、衝動性が高まり、目先の欲求を優先してしまいがちになるため、万引きや、痴漢や下着窃盗といった性犯罪、スピード違反などの交通違反、突発的な傷害事件などに繋がりやすいです。
特に大きな出来事もないのに30〜40代頃に突然窃盗行為が始まったり、クレプトマニアであっても、突然大量に大胆に盗むようになる等といったような窃盗内容における急激な変化があった場合、前頭側頭型認知症が疑われます。前頭側頭型認知症の診断には、MRIやSPECTといった脳画像検査も行った上で、専門の医師の判断が必要です。
過食をするための食品を万引きしたことがきっかけで万引きが常態化したり、クレプトマニアを発症する場合もあります。
万引きの記憶がない、頭の中で「盗め」という声が聞こえて盗んでしまうといった形で影響することもあります。
特定の対象に対するこだわりが強く、結果の見通しが立てづらいため、特定のものを何回も盗むといった行動が繰り返されることもあります。